頬伝う涙拭う手無きものを 有りやと思ほゆ身こそ悲しき
滴塵014
本文
頬伝う涙拭う手無きものを 有りやと思ほゆ身こそ悲しき
形式 #和歌
カテゴリ #6.情愛・人間関係
ラベル  #喜怒哀楽 #恋愛 #涙 #孤独
キーワード #涙 #頬 #拭う #孤独 #悲しみ
要点
涙を拭う手はないのに、「誰かがいる」と思えてしまう切なさ。
現代語訳
涙が頬を伝っても拭ってくれる手はないのに、あなたの手があると思えてしまう自分の身こそ悲しい。あなたはもういないのに。
注釈
涙拭う手:恋人や伴侶を象徴。
有りやと思ほゆ:実際はいないのに、いると(錯覚して)思えてしまう。
解説
孤独の深さを直接描き、幻の手を求める自分の心の弱さを映す。誰もいない現実を自覚しながらも、心は慰めを求める。この矛盾が人間の感情の複雑さを表現しており、悲しみを抱きしめるような優しさが漂う。恋愛感情や人間関係におけるもどかしさを繊細に描写。
深掘り_嵯峨
究極の孤独を描いた歌です。涙を流している時、誰もそばにいないという現実と、それでも誰かがいてくれるのではないかと一瞬でも期待させられてしまう心の弱さ(「有りやと思ほゆ」)の間の落差が、「身こそ悲しき」という深い悲哀を生んでいます。
この孤独は、俗世的な孤独であると同時に、真理を求め続けた末に全ての縁を断ち切った者が味わう精神的な孤独にも通じる深さを持っています。